INTRODUCTION

原作は数々の名コラムを世に送り出してきた高山真の自伝的小説『エゴイスト』。『トイレのピエタ』『ハナレイ・ベイ』など人の心の澱を深く抉る作品で知られる松永大司監督が、ドキュメンタリータッチの映像で、登場人物たちの間に流れる親密な温度感や、愛ゆえに生まれる葛藤を繊細に伝える。

主人公の浩輔を演じるのはストイックさと深い洞察力で数々のキャラクターに命を吹き込んできた鈴木亮平。本作では強さと脆さを同居させた生々しい演技で新たな境地を開拓した。浩輔の恋人である龍太役には話題作への出演が続く宮沢氷魚。その透明感あふれる儚い佇まいが愛を注がれる純粋な青年というキャラクターに説得力を与えている。また、龍太の母、妙子役の阿川佐和子は、主人公の人生観に影響を与えるキーパーソンともういうべき人物をナチュラルかつ圧倒的な存在感で演じている。すべての人に愛を問いかける感動のヒューマンドラマは、公開に先立って行われた東京国際映画祭でも高い評価を得た。

STORY

14 歳で⺟を失い、⽥舎町でゲイである⾃分を隠して鬱屈とした思春期を過ごした浩輔。今は東京の出版社でファッション誌の編集者として働き、仕事が終われば気の置けない友人たちと気ままな時間を過ごしている。そんな彼が出会ったのは、シングルマザーである⺟を⽀えながら暮らす、パーソナルトレーナーの龍太。

自分を守る鎧のようにハイブランドの服に身を包み、気ままながらもどこか虚勢を張って生きている浩輔と、最初は戸惑いながらも浩輔から差し伸べられた救いの手をとった、自分の美しさに無頓着で健気な龍太。惹かれ合った2人は、時に龍太の⺟も交えながら満ち⾜りた時間を重ねていく。亡き⺟への想いを抱えた浩輔にとって、⺟に寄り添う龍太をサポートし、愛し合う時間は幸せなものだった。しかし彼らの前に突然、思いもよらない運命が押し寄せる――

CAST

Ryohei Suzuki
鈴木 亮平|斉藤浩輔役
PROFILE »
Hio Miyazawa
宮沢氷魚|中村龍太役
PROFILE »
Sawako Agawa
阿川佐和子|中村妙子役
PROFILE »
Yuko Nakamura
中村優子|斉藤しず子役
PROFILE »
Iori Wada
和田庵|中学時代の浩輔役
PROFILE »
Durian Lollobrigida
ドリアン·ロロブリジーダ|浩輔の友人役
PROFILE »
Akira Emoto
柄本明|斉藤義夫役
PROFILE »
Ryohei Suzuki
鈴木 亮平|斉藤浩輔役
1983年3月29日生まれ。兵庫県出身。2006年俳優デビュー。2007年『椿三十郎』にて映画初出演。その後『HK/変態仮面』(13)などに出演。2014年にはNHK連続テレビ小説「花子とアン」にてヒロインの夫役を演じ、2015年に公開された映画『俺物語!!』では、型破りな高校生の主人公役を演じた。その後も『忍びの国』(17)、『羊と鋼の森』(18)、『ひとよ』(19)などに出演。2018年NHK大河ドラマ「西郷どん」で主人公の西郷隆盛を演じる。以降テレビドラマ「テセウスの船」(20)、「レンアイ漫画家」(21)、「TOKYO MER~走る緊急救命室~」(21)などに出演。映画『孤狼の血 LEVEL2』(21)では第45回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞をはじめ、第46回報知映画賞 助演男優賞、第34回日刊スポーツ映画大賞 助演男優賞、第95回キネマ旬報ベスト·テン 助演男優賞、第43回ヨコハマ映画祭 助演男優賞など多くの賞を受賞する。同年、『燃えよ剣』(21)、『土竜の唄FINAL』(21)が公開。2022年10月クールのテレビドラマ「エルピスー希望、あるいは災いー」に出演、2023年4月、映画『TOKYO MER~走る緊急救命室~』が公開予定。
Hio Miyazawa
宮沢氷魚|中村龍太役
1994年4月24日生まれ。サンフランシスコ出身。2017年にテレビドラマ『コウノドリ』第2シリーズで俳優デビュー。その後、ドラマ『偽装不倫』(19)、NHK連続テレビ小説『エール』(20)、映画『グッバイ·クルエル·ワールド』(22)、『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』(22/声の出演)など多くの作品に出演。初主演映画『his』(20)では数々の新人賞を受賞、映画『騙し絵の牙』(21)にて、第45回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した。舞台に「BOAT」「豊饒の海」「CITY」「ピサロ」など。また、NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」(22)への出演も話題を呼んだ。2023年には『THE LEGEND&BUTTERFLY』の公開を控える。
Sawako Agawa
阿川佐和子|中村妙子役
東京都出身。作家·エッセイスト。慶應義塾大学文学部卒業。TBS「情報デスクToday」「筑紫哲也NEWS23」「報道特集」でキャスターを務める。以後、執筆を中心にインタビュー、テレビ等幅広く活動。1999年『ああ言えばこう食う』(檀ふみ氏との共著)で第十五回講談社エッセイ賞、2000年『ウメ子』で第十五回坪田譲治文学賞、2008年『婚約のあとで』で第十五回島清恋愛文学賞を受賞。テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」にレギュラー出演中。近著に『ブータン、世界でいちばん幸せな女の子』(文藝春秋)。2014年第六十二回菊池寛賞を受賞。俳優としては2000年に『カラフル』の母親役で映画初出演。2019年にドラマ「セミオトコ」に出演するなど存在感を増している。
Yuko Nakamura
中村優子|斉藤しず子役
1975年1月7日生まれ。福井県出身。2001 年、映画『火垂』で主演を務め、同年ブエノスアイレス 映画祭で主演女優賞を受賞。2006年映画『ストロベリーショートケイクス』でヨコハマ映画祭助演女優賞を受賞する。2020年に韓国のアカデミー賞ともいえる青龍映画賞で最優秀監督賞と脚本賞をW受賞した韓国映画『ユンヒヘ』にも出演している。
Iori Wada
和田庵|中学時代の浩輔役
2005年8月22日生まれ。東京都出身。2017年『ミックス。」にて映画初出演。その後テレビドラマ「隣の家族は青く見える」(18)や「フォークロア:TATAMI」(18)などに出演した後、カナダへ留学。2020年に帰国後、映画『茜色に焼かれる』(21)で主人公の息子役を熱演し、第 95 回キネマ旬報ベスト·テン新人男優賞などを受賞した。
Durian Lollobrigida
ドリアン·ロロブリジーダ|浩輔の友人役
1984年12月24日生まれ。東京都出身。ドラァグクイーン。ディーヴァユニット「八方不美人」や、歌謡ユニット「ふたりのビッグショー」のメンバーとして活躍。TBSラジオ『LOVE RAINBOW TRAIN』パーソナリティも務める。
Akira Emoto
柄本明|斉藤義夫役
1976年劇団東京乾電池を結成し、座長を務める。1998 年『カンゾー先生』にて第22回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。 以降、映画のみならず、舞台やテレビドラマにも多数出演し、2011年には紫綬褒章を受賞した。2015年には第41回放送文化基金賞 番組部門「演技賞」受賞。2019 年には旭日小綬章を受章した 。

STAFF

Daishi Matsunaga
監督·脚本:松永大司
+
Makoto Takayama
原作:高山真
+
Kyoko Inukai
脚本:狗飼恭子
+
Hiroko Sebu
音楽:世武裕子
+
Daishi Matsunaga
監督·脚本:松永大司
1974年7月3日生まれ。友人であったトランスジェンダーの現代アーティスト・ピュ~ぴるを8年間追ったドキュメンタリー映画『ピュ~ぴる』(2011)で監督デビュー。同作は第40回ロッテルダム国際映画祭、第11回全州国際映画祭、パリ映画祭など数々の映画祭から正式招待され絶賛された。2015年には初の長編劇映画作品『トイレのピエタ』(出演:野田洋次郎、杉咲花)が公開。本作にて、第20回新藤兼人賞銀賞、ヨコハマ映画祭森田芳光メモリアル新人監督賞などを受賞。また第16回全州映画祭インターナショナル・コンペティション部門、第45回ロッテルダム国際映画祭Voices部門に正式出品された。2017年には、15年振りに復活を果たしたTHE YELLOW MONKEYの1年間の活動を追ったドキュメンタリー映画『オトトキ』が公開。同作品は、第22回釜山国際映画祭ワイド・アングル部門に正式出品。さらに2018年、国際交流基金×東京国際映画祭による「アジア三面鏡」企画第二弾に、アジア気鋭の監督の一人として参加、『碧朱』が東京国際映画祭にて上映。その後、村上春樹原作『ハナレイ・ベイ』(出演:吉田羊、佐野玲於、村上虹郎)、『Pure Japanese』(出演:ディーン・フジオカ、蒔田彩珠)と監督作品が公開されている。
Makoto Takayama
原作:高山真
東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる傍ら、『こんなオトコの子の落としかた、アナタ知らなかったでしょ』(飛鳥新社)でデビュー、『羽生結弦は助走をしない』(集英社)がベストセラーに。著書に『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』(小学館)、『愛は毒か 毒が愛か』(講談社)など。あらゆるテーマを愛と毒のある切り口で、時に笑い、時に人生哲学に昇華させる彼の名コラムはOggi他さまざまな媒体で人気を集めた。2010年、浅田マコト名義で自伝的小説「エゴイスト」を発表。2020年没。
https://dps.shogakukan.co.jp/egoist
Kyoko Inukai
脚本:狗飼恭子
1974年7月9日生まれ。埼玉県出身。1992年に、第1回TOKYO FM『LOVE STATION』ショート·ストーリー·グランプリにて佳作を受賞。高校在学中より雑誌などに作品を発表。95年に小説第一作『冷蔵庫を壊す』を刊行。以後、小説·脚本·エッセイ等、多方面において活動の場を広げる。脚本を担当した主な映画作品に『ストロベリーショートケイクス』(05)、『スイートリトルライズ』(10)、『百瀬、こっちをむいて。』(14)、第70回ベルリン映画祭審査員特別賞を受賞した『風の電話』(20)など。テレビドラマに「忘却のサチコ」(18)、「神木隆之介の撮休」(22)、「少年のアビス」(22)など。
Hiroko Sebu
音楽:世武裕子
1983年生まれ。広島県在住。パリ·エコール·ノルマル音楽院映画音楽学科を首席で卒業。2011年『家族X』にて初めて映画音楽に携わり、以降、数多くのテレビドラマ、映画、CMの音楽を手掛ける。主な作品に、 『ストロボ·エッジ』(15)、NHK 連続テレビ小説「べっぴんさん」(16)、『リバーズ·エッジ』(18)、『日日是好日』(18)、『生きてるだけで、愛。」(18)、『星の子』(20)、『ロマンスドール 』(20)、『風の電話』(20)、『Arc アーク』(21)、 『空白』(21)、Amazon Original「モダンラブ·東京」(22)などがある。2022年からは"日本語を歌うシリーズ"の不定期配信をスタートしたシンガーソングライターでもある。

INTERVIEW

Q.鈴木亮平さんのキャスティングについて教えてください。
A.亮平に関しては、知り合ってからすごく長いんです。『トイレのピエタ』の公開の際のトークイベントにも来てくれて、『エゴイスト』の文庫本のあとがきにも東京国際映画祭で会ったときに僕から原作を渡されたという話を書いてくれています。最初に明石さんから亮平の名前が出たときはイメージが違うと思ったんですよ。もうちょっと背が小さい方がいいのかなと思ったり、イケメンすぎるというか、出来すぎな気がしたりして。しかも亮平だと、筋トレは必要ある? みたいにもなりそうだな、と(笑)。でも考えてみると、亮平は体も大きくて強靭なイメージがありますが、実は喋り方も含めて柔らかさみたいなものがあると僕は感じていました。それで何回も脚本を読み直しているうちに、いいかも、と。“エゴイスト”という言葉が背負うものって、すごくネガティブじゃないですか。途中までは観ている人が「浩輔って嫌な人だな」と思ったとしても、最終的には彼を愛してほしい。そういう意味で難しい役だと思うので、亮平にお願いをしたいと思いました。
Q.宮沢氷魚さんについてはいかがでしょうか?
A.氷魚をキャスティングした一番大きな理由は、亮平とのバランスの良さですね。演技って相手があってのものなのでひとりが優秀でも絶対ダメで、ふたりだからこそ補いあい、高みにいける。キャリアも含めて見た目も個性も良い意味で違うから、刺激をしあえるんじゃないかとも思いました。龍太は天真爛漫で、浩輔はすごくロジカルに生きている人。そのあたりもそれぞれの持ち味にあっているし、芝居をしても面白くなるんじゃないか、と。そして何より氷魚も亮平もフォトジェニックで、カメラに愛されている人だと思いますね。
Q.阿川佐和子さんのキャスティングについてもお聞かせください。
A.最後の最後まで妙子は誰にするのか、すごく悩んだんです。鈴木亮平、宮沢氷魚と名前が並んだとき、もう一人の方との組み合わせに既視感がない方にお願いしたく、プロデューサー陣と何度も議論をしました。この年代で活躍されている女性俳優のお名前を色々と挙げてもらっても、なかなか首を縦に振ることができなかったのですが、阿川さんを提案してもらったときに、これは良いかもと思ったんですよ。お芝居の仕事は何本かしているけれどもがっつり役者という感じではなく、ご自身が本を書いているので、しっかりと表現者だろうな、と。原作を読むと妙子は弱々しい方をイメージしやすいかもしれないのですが、人間って苦しいときほど笑顔でいる強さを持っている方が素敵だなと思うのです。ひとりで龍太を育てた逞しさを持っている方がいいんじゃないか、と。阿川さんには会ったことはなかったのですが、物怖じしなくてチャキチャキとしたイメージがあったので、オファーをさせていただきました。
Q.音楽の世武裕子さんには、監督からはどのようなリクエストをしましたか?
A.彼女の音楽のセンスがすごく好きで、一緒に仕事をするのは3本目になります。今回は本編では二箇所、エンディングで一箇所なので、音楽が入っているところは三箇所しかないんですよね。僕は最後に浩輔は救われていると思っているのですが、観る人によってはそれが伝わらないかもしれない。だからそこはちょっと幸せな感じになったらいいな、みたいなことだけは言ったと思います。あとは劇伴としての音楽ではなく、日常で囲まれている音楽がキャラクターを伝えると思うので、浩輔の部屋で流れているクラシックやちあきなおみ、オープニングの撮影スタジオでかかっている音楽にもこだわりました。撮影スタジオの音楽は、僕の知り合いであるDJのオリジナルの音源を使わせてもらっています。
Q.監督としては今、この映画がどのように届いたらいいなと思っていますか?
A.映画はエンターテイメントとしての側面もすごく大事だと思っているので、観ている間は喜怒哀楽の感情も含め、楽しんでもらいたいと思っています。そして観終わった後、この映画が持つテーマについて誰かと話してもらえたり、考えてみてもらえたら嬉しいです。エゴイストという言葉についてでも、セクシュアリティについてでも、浩輔と妙子の関係についてでも何でもいいんです。この映画に込めているメッセージについて、誰かとディスカッションしてもらえたら幸いです。